紀南抄12月4日付

2016-12-3

 小説家の辻原登氏と俳人の宇多喜代子氏が、日本芸術院の新会員に選ばれた。辻原さんは昭和22年和歌山県印南町出身。『村の名前』で芥川賞を受賞。代表作の一つに新宮をモデルにした「森宮」を舞台にした大著『許されざる者』がある。宇多さんは昭和10年山口県生まれの俳人。当代を代表する俳人で現代俳句協会特別顧問。熊野大学が版元となった「牟婁叢書」の第一冊目として『夏月集』を上梓している.
 二人の共通点は、熊野を文学的想像力の源泉とする点であろう。なぜ熊野なのか。辻原さんは、熊野の自然を死者の魂が復活を求めてさまよう場とし、「これらの魂(モノ)を取り集めること。小さくあれ、壮大であれ、ひとつの物語(モノガタリ)として構築する。モノに本来の魂の場所を与えるのは、つねに現在の〈私〉なのである」とその種明かしをしている.
 宇多さんをこの地に結びつけた中上健次は、『夏月集』を絶賛。彼女の「本当の資質が、鮮明になった」作品と説いた。同句集全300首を通読すると、現実と霊とが交響する夢幻能を観ている気になる.
 文学の想像力は、「本当」がある場所、行き着くべき場所にモノが収まっていく土地として熊野を捉える。二人の仕事に導かれ、再び我が足下を照らしてみたい。

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