紀南抄10月22日付

2016-10-21

 「これ(秋幸)も俺も、紀州土民やで」。中上健次の長編『地の果て 至上の時』で主人公秋幸の父・浜村龍造が、知己のある医者に言い放つ言葉だ。血と土地を作品の舞台にした中上作品の自意識を端的に示す科白と思う。
 沖縄の米軍ヘリパッド建設をめぐって反対する活動家に対し、「土人」と暴言を吐いた機動隊員がいた。私は昭和天皇崩御直前に発された2つの言葉を想起した。一つは「連日ニュースで皇居前で土下座する連中を見せられて、自分はなんという『土人』の国にいるんだろうと思ってゾッとするばかりです」(『文學界』平成元年2月号)という批評家・浅田彰の言葉。もう一つは、偶然にも同じ号に載った中上健次の「僕は文化の文脈において、天皇は神だと思うんです」という言葉。浅田はこの国の「近代」への批判者として、中上はいわば「土人の知識人」として言葉を発している。
 では、あの隊員の言葉の裏にあったものは何か。それは「土俗的」な差別感情以外の何ものでもない。果たしてわれわれは「土人」ではないのだろうか。問いを手放した瞬間、人間はいとも簡単にあのような世界に落ち込んでしまう。あの隊員の侮蔑的な表情の先に、大東亜戦争時に盲進した日本人の姿を見たのは私だけだっただろうか。

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